家族には見せたくない ~ Webマーケティングよりマーケティング #14
『うちの会社のサイトを、家族や友人には見せたくない』
あるクライアントのエラい方々の取材を終え、若い社員と話している時、この言葉が突然、飛び出しました。
いっけん見過ごしてしまいそうな何気ない言葉ですが、その時の僕には、ものすごく衝撃的でした。
【うちの会社のサイトを家族や友人には見せたくない】
いったいどういう気持ちから、こんな言葉が生まれるのか、強烈に知りたくなりました。
僕も自社サイトを家族や友人に積極的に見せようとはしませんし、見ることを依頼したことも強要したこともありません。
でも、親から、
『今、何の仕事しとるん?』
って聞かれて、親がわかる言葉で伝えることをとっくに放棄している僕は、何度か、サイトを見てね、と伝えたことがあります。
何たって、僕は、【Webプロデューサー】ですから(笑)。
自分だっていまだ、どんな仕事なのか明確にわかってないかもしれませんよ(笑)。
そんなふうに、自社サイトの用途などたかが限られてはいますが、ビジネスのシーンでも、こうした身内とのやりとりの中でも、自社サイトを見てもらう機会は少なくないと思うんです。
にも関わらず、【見せたくない】人がいます。
彼に聞いてみました。
どうして見せたくないのか。
帰ってきた言葉が、また衝撃的でした。
『会社は嫌いじゃないが、このサイトを見せるのは恥ずかしい・・』
何だかめまいがしそうでした。
この言葉を経営者が聞いたらどう思うだろう・・
この一件を頭から追い出すことができない僕は、ある調査を実施しました。
この中にはあえて僕のクライアントを含めませんでした。
【あなたは、自社サイトを家族や友人に見せられますか?】
予感はしていましたが、やはり、衝撃的な結果が帰ってきました。
見せることにネガティブな感情を持っている人が何と【7割】近くいたのです。。。
この人たちのすべてが、
『会社は嫌いじゃないが、このサイトを見せるのは恥ずかしい・・』
と思っているとは思いませんが、少なくとも、家族や友人に、自分の会社についてサイトを通して伝えること、あるいは、サイトそのものを見せることに消極的なことは確かなようですです。
このノートをお読みいただいている方々の中には経営者もおられると思います。
イメージしていただきたいんです。
社員が、自社サイトを親しい人に見せることに躊躇してしまう理由を。
僕は、仕事が1つ増えたと強く実感しました。
僕のクライアントの多くは、Webサイトを外に向かわせて仕事をさせることを望みます。
購入者、見込み客、取引先、学生、そんな人たちがターゲットになります。
僕もそれを強く意識して、調査し、取材し、企画し、制作します。
ですが、もう1つ、強く意識する人たちができました。
クライアントの社員の方々。
いかなるサイトであろうと、いかなる目的であろうと、そのサイトを運営する会社の社員の人たちも、常にターゲットとして捉えておく必要があると確信しました。
もともと、取材は、クライアントの魅力を見つけ出し、興味深く伝えるために、僕にとっては不可欠な作業であり、他社との差別化要因の1つでもありますが、この時の取材と制作は、一層燃えました(笑)。
自社サイトが、社員のモチベーションや、自分と会社との関わりに何らかの影響を与えているとは思いもしませんでした。
サイトの企画・構築に携わって10年超になりますがいまだこうして大反省することがあります。
自社を、自社の何かを非難されたり否定されたりしてうれしい社員はいないはずです。
どんな会社のどんな社員だって、程度の差こそあれ、会社と自分との関係を肯定しています。
できれば、もっと良好で意義深い関係にしたいと思っているんじゃないでしょうか。
先日、あるマーケティング講座を受講中、クライアントへのベネフィットや他との差別化要因を探求する作業の中で、参加者の一人が、
『自分の会社って、案外すごいってことに気づいた』
と発言し、笑いをさらいましたが、ここに普段は見えにくい、本人自身もあまり意識したことのない社員と会社の関係を見ることができます。
多くの社員は、自分と会社を良好で意義深い関係にしたいと基本的に思っているんです。
その気持ちをはばむたくさんの要因の1つに、自社サイトも含まれると、今では考えています。
今のままの自社サイトを家族や友人に見せることは、会社と自身の関係に悪い影響を与えると多くの社員が考えています。
自社サイトを見せることで、見た人たちの心の中で自分の価値が低められるのではないかと恐れているんです。
マネジメントに携わる方々には、そんな視点で自社サイトを眺めてみていただきたいと強く思います。
そんな思いを社員にさせるべきではありませんし社員が見せるのを嫌がるようなサイトが、他の誰かに別の利益をもたらすとは思えません。
クライアント、見込み客、取引先、学生、その他多くのステークホルダーにとって有益なサイト、何らかの利益を提供できるサイトは、少なくとも社員が親しい人に見せることを阻むようなサイトではないと確認します。
何だか、マネジメントとマーケティングが混ざり合ってしまって、話の焦点がボヤけてしまってすみません。
衝撃のひと言を聞いてから、ずっと後のこと。
フォローアップでご訪問した際、最近、
『サイトを見せながら、子供に仕事の話をするようになった』
と言う社員がいてね、とうれしそうに話される社長。
あなたは、その社員が、少し前に何て言っていたか知りませんよね。
でも、あなたは、きっと経営者として良いことをしました。
社員のためにも、あなたのクライアントのためにも。
帰りの車を運転中の独り言。
一番うれしかったのは僕です(笑)。