『感動を味わう』 あるいは育たないマーケット #2
年に1度も経験できない『感動』は、探し求めて出逢えるものではないんですよね。
何かしら引き寄せられる”縁”や”運命”のようなスピリチュアルな何かが介在するのかも
しれません。
だから、『感動』は突然やってきます。
こんにちは。
チームデルタの谷口です。
そのレストランと出逢ったのは2年前の寒い日でした。
北総大地にある小さな街、佐原。
古い古い町屋が続く街並みの一角に、その店はありました。
話が少し横にズレますが、僕が、千葉に移り住んでそろそろ20年。
人生で一番長く生活する街になりました。
しかし、、、、千葉は案外広くて、まだ一度も訪れたことのないエリアがいっぱい。
佐原もその1つでした。
僕は、屋根を取っ払ってドライブするのが大好きなんですが、大人の遠足には、やっぱり素敵なレストランが欠かせません。
だから、千葉県内のあちこちに出かける理由があまり見いだせなかったんですよね、以前は。。
良店ひしめく都内をさしおいて、あえて遠出するほど価値のあるレストランはそう多くありません。
都内のどの店とも異なり、そこでなければ得られない価値を持つ、そんな千葉のレストランは、当時の僕にとって3軒のみでした。
フランス料理で1軒、イタリア料理で1軒、そして、はまぐり屋で1軒。
その日、僕は、たまたま、飛びきり美味しい「みりん」と「ごま油」を求めて、このいにしえの時間が現代へと還流し続ける街を訪れていました。
とても風情のある町屋の一軒で優れた料理を出すシェフのうわさが少し前から僕の耳に届いてましたが、たいそう気に留めることもなく。
何せ遠い(笑)。
僕が住む街から70kmもあるんですから。
横浜のもっと先まで行けそうな距離を、わざわざリスクを冒してまで走るには相応の理由が必要です!
だって、もうこの歳で高いお勉強代は払いたくないですからね(笑)。
でも、その日は、件の理由で偶然にもすぐそばにいたわけですから、これも何かの縁なのかもしれません。
『夢時庵』というフランス料理屋があります。
”ムージャン”と読むんですが、これを聞いて ”!” ときたあなたは相当な食通!
フランス料理通!!
そうです、フランスはコート・ダジュール、カンヌ近郊のムージャン村にあるオーベルジュ『ル・ムーラン・ド・ムージャン』のムージャンです。
世界中からセレブリティが集う名店中の名店で、現在、指揮を振るうのは、天才アラン・ロルカ。
カンヌ映画祭の季節には、さながら第二会場の様相を呈するとか。
そんな超一流の老舗で修行した鈴木シェフが帰国後、佐原で開いたのが、ここ『夢時庵』なんです。
前菜のひとくちで気づきました。
ここの料理の良さは、何と言っても、フランス料理の醍醐味であったソースの出来映え。
フランス料理がソースに軸足を置かなくなって久しいせいもあり、驚きました。
そして、とても品のある香りも特徴の1つ。
これは、よほど質のいいシェフの元で修行しないとできることじゃないんですよね。
すぐそばの銚子港から毎日揚がる鮮度のいい魚には、丁寧な下処理が施され火の入れ具合も見事。
魚に関しては、日本人の舌は肥えてるんで、洋の施しを受けた魚で客を満足させるのは大変なことです。
そういう面では、日本のシェフ達の苦労が偲ばれます。
ここの料理はシンプルだけど、優れた料理人の片鱗をあちこちに感じ取れます。
前菜、スープ(またはリゾット)に魚、肉、デザートに加えておかわり自由の自家製パンにて¥2,800.-
こんな名店が、こんな小さな街の片隅にあったなんて。。
でも、このシェフの卓越した技を味わい尽くすのは、定番のコースでは無理です。
『田舎で、今のような時代にお客さんこれ以上の価格を望むのは難しい』とはシェフの言葉ですが要望にはいくらでも応えてくれます。
僕は、かつて、シェフおまかせの仕立てでお願いしたり、スープ・ド・ポアソンベースのブイヤベースをお願いしたことがあります。
やはり、ソース、スープの出来映えが半端じゃない。
あまりにも当たり前の定番料理、『フォアグラのトリュフソース』を心から美味しいと感じたのは、この店が初めてでした。
すごいですよ、このシェフのポテンシャルは。
今や、年に1度、あるいは2度程度しか経験できないレストランでの感動。
こうした、綺羅星のようなレストランとの出逢いは、予測不能で突然訪れるからこそ『感動』の輝きが一層増すのかもしれません。
が、しかし、その裏では、多くのレストランが、その街の人たちから育ててもらうことができずに消えていく過酷な現実も隠れています。
すぐれたシェフ、優れたレストランは、街が育てるもの。
それができるか否か、それこそが、その街の文化というものじゃないですかね。
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