美貌のマダムはマーケティングがお好き
『シェフの一番のファンは私です。』
この日、一番輝いていたのは、うわさの料理ではなくこの言葉でした。
今、人気上昇中の白金の小さな店でのお話の続編、はじめましょうか。
こんにちは。
チームデルタの谷口です。
レストランという場所は、時に、とても新鮮なエピソードに出逢う場所でもあります。
実はこの日、店への到着が1時間以上遅れました。
予約時間に合わせて準備し、食事の間合いを見ながら料理するのがレストラン。
だから、遅れたり、行けなくなった時にはできる限り早めに知らせたいと思っています。
互いに礼を尽くことが、時間の心地よさを増しますからね。
だけど、遅れることを伝えると、
『○○時までに来店がなければ、予約は取り消しになります』
なんて言わわれることがあります。
ラストオーダーまでには十分な時間があるにもかかわらずです。
(2回転以上させる店は特にこうなりやすいですが、小規模な路面店がランチで2回転させるのってどうなのかな・・)
遅れるのはこちらのせいだし、レストランにも都合があることは承知の上で言わせてもらえれば、不愉快なテーブルだと知ってて席に着く気にはなれないので、取り消しになる前にこちらからキャンセルします。
実は、多くのオーナーや、オーナーシェフたち自身は決してこういう応対をしません。
たいていは、電話を受けた人の個人的価値感で決められてしまいます。
でも、こういう店は、様々なシーンでボロを出します。
対応力と誠実さに欠ける店は、それを隠す術を持ち合わせて無いようで、案外簡単にそれを露呈し、客の信頼を得るチャンスを失うんですよね。
結局、この日の入店は、オーダーストップの30分前。
でも、この店は違ってました。
フランス料理のランチが1時間以上かかることは店も承知しています。
昼の営業が終わると、わずかな休憩の後、夜の準備に入ることを知ってるこちらとしては、迷惑をかけるのは忍びないです。
そんな気持ちを知ってのことか、入店直後、マダムから、
『ゆっくりお過ごしいただいて大丈夫ですから。』
と。
客の思いを見抜く洞察力。
その後も、客をくつろがせ、料理の味わいを増す魅力的な話術の数々。
見事でした。
実は、この店をセレクトした一番の理由は、このマダムに一度お会いしたいためでした。
季節を、色鮮やかに、そして繊細に、皿の上に描いた料理よりも、こちらのスペシャリテであるウズラや鳩の料理よりも、カサブランカを大胆に飾りつけ、かつて、あるグランメゾンのフロアを仕切っていた美貌のマダムに大いに食欲をそそられていたのでした!(笑)
かつて、僕の同伴者の片手が不自由であることを、最初の料理が供される前に気づき、フォーク一本でいただけるよう、包丁の入れ方、盛りつけ方の変更をシェフに指示してくれたギャルソンがいました。
今回のマダムのもてなしは、その時の感動を僕に思い出させました。
まさに心得たプロフェッショナルのなせるサービス。
もちろん、これほどのサービスの中にあっても料理が見劣りすることはありませんでした。
特に女性には大いに共感を得そうな、この店の料理についてマダムと話していたそんな時、くだんの、
『シェフの一番のファンは私です。』
が飛び出したわけです。
もっと、正確に言えば、
『でも、シェフの一番のファンは私です。』
だったんですけどね。
まるで、
『シェフは私だけのもの!』
とでも言わんばかり(笑)。
そうです、ここのシェフはマダムのご主人。
ご主人の料理を全面的に信頼している。
だから、お客様のことは私にまかせて。
そんな誇り高く信頼に裏打ちされたメッセージが届いたような気がしました。
退店の時に挨拶に来られたシェフは、どうやらマダムよりも年下そうな、とてもはにかみ屋
で言葉少ない好印象な料理人でした。
そして、思わず、
『おとなしそうな顔して、いい嫁さん、捕まえてんじゃん!』
って口から出そうになるのを我慢しながら、お店をあとにしたのでした。
もてなしは商品よりも印象深く。
サービスは料理よりも美味しく。
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