『ワォ!』な無料と無視される無料 ~ Webマーケティング よりマーケティング #20
マーケティングにおいては、今でも【無料】という考え方は有効です。
人は、【無料】に惹かれます。
・無料サービス
・無料プレゼント
・無料チケット
チラシにも、ネットにも、【無料】があふれています。
ただし、【無料】がいつも魅力的とは限りません。
【無料】が、必ずしも【買う理由】にならない場合もあります。
皆さんのご経験にあてはめていただければおわかりだと思います。
まったく魅力がなく、心が動かない【無料】がたくさんあります。
お客様に魅力を感じてもらうことのない、無視されるような【無料】を提示することは、逆に自らのビジネスを窮地に追い込むことになりかねません。
自らの商品やサービスへの自信と誇りを傷つけかねません。
無駄に安売りすることになりますからね。
どうせやるなら、『ワォ!』、『そこまでやる?!』と感じてもらえるような【無料】をやりたいものですね。
しかも、あまりお金をかけることなく・・(笑)。
今日は、そんな、ものすごい『ワォ!』を大勢の人に感じさせ、安く短時間でブランドを構築した事例をご紹介します。
僕が学ぶ、エイブラハム・マーケティング大学においても時々登場するメジャーな事例ですが、今日は、これをより細かく計算し、深堀りしてみたいと思います。
◆CM流さず、チラシも撒かず
アメリカで老舗のドーナツチェーン、クリスピー・クリーム・ドーナッツは、2006年、日本に初進出し、その第1号店を新宿にオープンさせました。
クリスピー・クリーム・ドーナッツは、広告にお金をかけないことでも有名で、日本進出にあたっても、テレビCMはおろか、チラシすら配りませんでした。いくら新宿の好立地にあるとは言え、何もしなければ認知は進みませんし人も集まりません。
しかし、クリスピー・クリーム・ドーナッツは、緻密かつ非常に大胆な戦略で、多くのファンを築いていきます。
日本初進出直後に行ったクリスピー・クリーム・ドーナッツの驚くような宣伝はこうです。
◆ドーナツ売るなら、ドーナツにものを言わせる
チラシではドーナツのおいしさはわかりません。
テレビCMでも、本当の魅力は伝わりません。
おいしいドーナツを知ってもらうには、ドーナツを食べていただくのが一番です。
あたりまえですけど、ちょっと『なるほど!』って思ったでしょ?(笑)
クリスピー・クリーム・ドーナッツは、店の近くで、一週間かけて、ドーナツを配りました。
ここまでは、ご近所のパン屋さんでもやりそうな、ごく当たり前の宣伝に過ぎませんが、クリスピー・クリーム・ド
ーナッツは、ちょっと、いえいえ、ものすごく違ってたんです。
クリスピー・クリーム・ドーナッツが配ったドーナツは、
一週間で、84,000個!
すごい数ですよね。
配ったのはお昼時。
狙いはランチタイムのOLさんです。
でも、まだ驚くのは早いんです。
クリスピー・クリーム・ドーナッツが配ったのは、試食用のドーナツの切れっ端ではなく、丸々1個でもなく、何と道行く一人一人に、同社の大人気商品、12個入りの【ダズンボックス】を【無料】で配ったのです!
熱々揚げたてドーナツが自慢の同社では、ドーナツは立てて包装しません。
横にして並べます。だから、12個入りのダズンボックスは宅配ピザよりも立派な箱になります。
イメージしてみてください。
こんな立派なドーナツが12個も入った箱を、いきなりプレゼントされたOLさんたちの反応を!
『えー、ウソー!』とか、『ほんとにタダ??』
と思わず声が出てしまうんじゃないでしょうか?
クリスピー・クリーム・ドーナッツは、一週間でこの箱を7,000個配ったんです。もちろん、無料で。
◆お客さんが宣伝係
さて、この12個入りボックスをタダでもらった人はどうするか、想像してみてください。
全部一人で食べちゃうでしょうか?(笑)
たぶん、多くの人たちは会社に、持ち帰ったはずです。
例えば、昼時にクリスピー・クリーム・ドーナッツの店の前で12個入りボックスをもらったOLさんの行動をシミュレートしてみましょう。
あまりに驚いた彼女は、会社に持ち帰り、この【驚きの体験】を、おそらく、たくさんの人にしゃべります。
「どうしたの?こんなにたくさんのドーナツ!」
「箱ごと配ってたの、タダで!」
「ホントに!? どこのお店?」
こんな会話が聞こえてきそうですね。
その話に驚いた人たちは、日本で初めて食べるドーナツを口にします。
おそらく12人がドーナツを食べることになるはずです。
このうちの何人かは、日本初上陸の新しくて驚くような宣伝を行っているドーナツ屋に興味津々で来店するでしょう。
こうして、『ワォ!』体験が、7,000箇所で起きるわけですから、次に何が起きるか、みなさんもおわかりですよね。
そうです、店に行列ができるんです。
◆この大判振る舞いを計算してみる
これだけの大判振る舞いをして、はたして同社では利益を出すことができるのでしょうか?
この一週間のキャンペーンをちょっと計算してみます。
・12個入りダズンボックス:1600円
・配布数:7,000個
ですから、販売価格ベースで、11,200,000円です。
ですが、原価で考えればもっと小さいはず。
とりあえず、ここでは半値程度とします。
とすると、5,600,000円ということになります。
テレビCMなど、とても流せるお金ではありませんね。
チラシですら、何度か配れば使い切る程度の宣伝費用です。
でも、これによって7,000人が想像を超えた【感動】を味わい、彼らの行動により、別の数万人にその感動が伝播したはずです。
ドーナツを配る店員だけではとてもできない規模の宣伝を、お客さんが自ら行ってくれたことになるんですね。
もう少し計算してみましょう。
最初にタダでもらった7,000人も含め1人が1つドーナツを食べたとすると計84,000人。
食べた人の4人に一人が、1年間で、定番商品であるダズンボックスを3回買ったとすれば、1億80万円の売上をも
たらすことになります。
その宣伝費用がさきほど算出した、5,600,000円。
一人当たりに換算すると、4,800円売り上げるために約267円の宣伝費用がかかった、ということになります。
売上に対する比率は、5.56%。
もしも、この費用を1個160円のドーナツの値引きに使ったとしたら、約9円。同じ宣伝費用で値引きできるドーナツは625,000個に増えますが、
『160円のドーナツが、151円です!』
と宣伝して振り向いてくれるお客様がどのくらいいるでしょうか。
想像を超えた『ワォ!』を7,000人に届け、数万人の口コミを発生させるのも、ドーナツ1個9円の値引くのも同じ金額です。
◆戦略はこれだけにとどまらない
実は、クリスピー・クリーム・ドーナッツの感動は、これだけにとどまりません。
お店にやってきた人たちは行列に並びますが、並んでる間に、またまた驚くようなサービスがあります。
揚げたて熱々のドーナツを丸々1個、並んでいる人全員に配るんです。
想像してみてください。
揚げたての一番おいしいタイミングで配られた無料のドーナツを食べた人が、自分の順番が来たときにどういう行動をとるか。
ここでは『返報性の法則』が発揮されます。
人は良くしてもらうと、お返ししようとする気持ちになります。
無料でドーナツをもらったお客さんは、
「ドーナツ1個ください」
とは言わないんです。
無料のドーナツを食べたばかりで揚げたてのおいしさを知った多くのお客さんが、12個入りのダズンボックスを買うんです。
事実、クリスピー・クリーム・ドーナッツに来店するお客さんの8割が、ダズンボックスを買っていくとのデータもあるそうです。
(無料配布サービスは、2010年8月末に、5,000万個の配布が完了したとのことで終了しています)
店内には、『ドーナツシアター』と呼ばれる巨大なドーナツマシンがあり、ドーナツが次々と作られる様子を、大きなガラス越しに眺めることができ、待ち時間も苦にならないよう工夫されています。
『ホットライト』が点灯したら、揚げたてドーナツが買えるサインです。
このサインが、行列を作る一つのアイデアでもあるんですね。
クリスピー・クリーム・ドーナッツのマーケティング事例
いかがでしたか?
【ワォ!】な感動、想像を超える感動、人の心を動かすようなマーケティングこそが、人に行動を起こさせ、買う気にさせる
原動力になるという好例だと思います。
みなさんのビジネスにおいても、【ワォ!】を起こす可能性がどこかにないか、じっくりと考えてみてください。
マーケティングは、僕らの言葉や行動の隅々に反映されます。
マーケティングは、僕らのビジネスの可能性を大きく引き出し拡大させます。
長い文章を最後までお読みいただきありがとうございました。
さぁ、本日もハッピーワーキングでまいりましょう。
今日1日がみなさんにとって実り多き一日でありますように